甲子園とマーケットに潜む魔物の正体
「魔物」の正体は、人間の心理が創り出す歪み
夏の甲子園。
誰もが予想しなかったような強豪校の、
普段は起こり得ないようなミスや、
壇場での大逆転劇を見て、
「甲子園には魔物がいる」と表現されることがあります。
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私たちトレーダーが向き合うマーケットにも、
同じように魔物が潜んでいます。
ニュースや経済指標とは無関係に、
冷静な判断を狂わせる急騰や急落。
それによって心理が揺さぶられ、
冷静さを欠いた自己破壊的なトレードに走ってしまうのです。
ジャック・D・シュワッガー著の
『マーケットの魔術師』では、
スーパートレーダーたちを「魔術師」と表しています。
彼らはマーケットという魔物を恐れず、
冷静に観察し、魔物に自分のコントロールを許しません。
だからこそ、勇者でも戦士でも賢者でもなく、
「魔術師」と呼ばれるのだと思います。
この「魔物」の正体とは何でしょうか?
それは、外部環境ではなく、
他でもない人間の心が生み出す
「心理的な歪み」です。
勝利への焦り、
負けたくないという恐怖、
そして際限のない欲望。
これらの感情が制御を失い、
冷静な判断を飲み込んだとき、
「魔物」が牙を剥き、
致命的なミスを誘発させます。
私自身、長年勤めた銀行を退職し、
プロトレーダーを目指して歩み始めました。
この過酷な世界で生き残るため、
この魔物との戦いこそが、
最も重要だと痛感しています。
銀行に勤務する前は証券会社に勤務していましたが、
証券会社勤務時代にマーケットを見ていた頃とは
見え方が完全に別物だと感じています。
魔物がしばしば「夏」の甲子園に現れる理由
ここで、なぜこの「魔物」が春の選抜ではなく、
夏の甲子園でより強く語られるのかを紐解くことが、
魔物への対策になると思います。
それは、灼熱の環境による極度の疲労に加えて、
「負ければ引退」という究極のプレッシャー、
そして自分のプレイでチームメイトたちと
築き上げてきた時間を終わらせたくないという
潜在意識が、通常時であれば何でもない動作を鈍らせるからです。
観衆は、球児がそのプレッシャーと戦う姿に息をのみます。
私たちトレーダーも同じです。
長時間のトレードによる疲労、そして、
大きなポジションを持ったときの精神的重圧。
この心理的プレッシャーは、
夏の甲子園でプレイする
球児たちと何ら変わりません。
魔物は、脳を含めた肉体的疲労と
精神的脆弱性という、
環境要因と心理要因の
複合作用によって、
より強烈に姿を現します。
ただし、甲子園と違い
マーケットに観衆はいません。
一般的にトレーダーは
孤独との戦いであり、魔物と
一人で対峙し、
一人で気持ちの整理をする
必要があります。
魔物に対峙する二つの「魔除け」:鍛錬と規律
球児たちの魔除けは「鍛錬」と「反射」
球児たちの強さの源は、
厳しい日々の鍛錬です。
彼らは反復練習を通じ、
極限のプレッシャーがかかる場面でも、
考えるより先に体が動く
「反射」のレベルにまでプレイを高めます。
これは、いわば「無意識の規律」です。
魔物が”焦るよう”囁きかけても、
基礎が染み付いた体は、
感情に支配されることのない
冷静なプレイに繋がります。
球児は厳しい練習を通じて、
自分への信頼を培い、
それが、
プレッシャーという名の
魔物から身を守る
強固な精神的土台になります。
トレーダーの魔除けは「規律」と「結界」
一方で、
トレーダーにとっての
魔除けは「規律」です。
日々のトレードルールの構築、資金管理。
そして、それを徹底的に守り抜くことが、
トレーダーとしての鍛錬です。
魔物は、利益が乗ったときの
「もっと」という欲望や、
損失が出たときの
「今すぐ取り返したい」という
復讐心や恐怖心を耳元で囁きます。
この誘惑に打ち勝つための「結界」こそが、
自分で設定したトレードルールです。
そしてこのルールを
破った事による結界崩壊が、
この魔物の代償であり、
トレーダーをマーケットから
退場に追い込む原因になり得まえます。
恐怖心を「魔物」に変貌させないための自己認識
誰もが、マーケットで恐怖心を抱きます。
しかし、この恐怖心は、
危険を察知し、
リスクを管理するために備わった、
なくてはならない本能です。
問題は、恐怖心そのものではありません。
その感情に支配され、
過剰な狼狽売りや、
ルールを無視した
損切りの見送り、
許容額を超える含み損の放置など
無謀な行動に走った瞬間、
その恐怖は「魔物」へと変貌します。
真の魔除けとは、
恐怖を排除することではなく、
恐怖の存在を客観的に認識し、
感情の波を規律で制御すること。
それこそが、
トレーダーに求められる
自己認識能力です。
楽しむ者が生き残る
野球もトレードも、
究極的には「楽しむこと」が最強の魔除けであり、
長く戦場に留まるための秘訣だと感じています。
ここで言う「楽しむ」とは、
日々自分が選んだ道を歩むことができる事に感謝し、
その野球道や投資の道を歩み始めた頃の
ワクワク感を忘れないということです。
感情に支配され、楽しめなくなった人には、
野球もマーケットも容赦なく退場を宣告します。
これは、プロトレーダーを目指す私自身に
言い聞かせている言葉でもあります。
自分が好きで選んだ道なのですから、
恐怖心に支配されることなく、規律を遵守し、
この道中を楽しみたいと思います。

